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愛ある世界



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K
 
   ぼんやりと雪だらけの真っ白い地面に横たわっていた。
 ぼんやりと曇った空を、見ていた




 しんしんと冷える冬の真夜中   戦いを明日に控える夜。
 暗闇の部屋の中で人の声と布擦れの音がする。
 寝台の上で踊るのは二人。
 外は凍え死にそうになるほどに寒いのに二人の周りの温度だけ、雪をあっと言う間に溶かしてしまうほどに熱い。
「甘、ね……いっ」
 甘く零れる言葉。
 自らの内に入りこんでは意識ごと持っていく乱暴な熱に凌統は乱れ、髪が汗で濡れた肌へと張り付いている。
 名を呼ぶだけでいい。
「凌統…っ」
 名を呼ばれるだけでいい。
 それだけで何も要らない。
 甘く囁くだけでいい。
 甘く囁かれるだけで、いい
 下手な言葉よりも心に一番響いてくる。
 心の奥の一番の想いが   。  もっと欲しいと強請らなくてもそれをくれる。
 身体を重ねている時と、互いに背を預けて戦う時は言葉など何も要らない。
 信頼と   愛。
 目が醒めたら戦場へと向かい、戦いが終わった時に自分の命があるかなど誰にもわからない。
 死ぬ気など誰もありはしないだろう、甘寧も凌統も同じだ。
 戦場では運をも味方にしなければならない。
 だからこそ今を、この刻を心の赴くままに、身体も心も満足するまで肌を合わせる。
 荒れた波の様に強く弱く繰り返される快感が身体も心も満足させていく。
 このままこの時間が続けば良いとさえ想う程に   
「甘寧……ッ!」




 雪の上に足跡を残して歩く。
 白い色の中に道標として続いている赤を追いかけて、目的の人物を   凌統、を追いかける。
「よう」
 曇り空を見ていた凌統の視界に甘寧の顔が入ってくる。
「……よう」
 軽く手を挙げた。否、軽く挙げる事しか出来なかった。
 無言で目と目が合う。
 言葉など、ない。   いらない。
 どれほどの時間そうしていたのかわからないが、ちらちらと雪が舞い出していた。
 そして、不意にふわりと優しく凌統が笑う。
 珍しい笑顔だった。
「……甘、寧……」
 そして甘い声で名を呼んだ。
 想いを、最後の想いを込めて。
「凌統……」
 力強い声が凌統の耳に届いて、もう一度笑って   目を閉じた。
   か細く続いていた呼吸も同時に刻を止めた。
 甘寧は動かなくなった凌統の傍から赤に濡れた彼の愛器を持ち、たち尽くしたまま彼を見た。
 僅かに視界を邪魔する程度だった雪が気がつけば辺りが見えにくくなる程になっていた。
 酷く吹雪き凌統が隠れていく。
 自分の身体にも積もる雪を気にせずに静かに甘寧は見ている
 そうして景色の白と混ざり合いまるで存在までも消してしまったのではないかと思う程に彼の身体に降り積もった頃、雪の下で眠る彼の武器を手に踵を返した。
 甘寧が歩く先にもう、赤い道標はない。
 凌統と過ごした日々も思い出も想いも全て、彼の元へ置いてきた。
 決して後ろを振り返りはしない。
 それが戦場で、それが愛。




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「25のお題02.愛ある世界」2005.12.29up
デキてる甘×凌。これも愛。今年最後がこれか……。